対談 The Road to Specialists

対談:井上廣明×浮田直宏

 

The Road to Specialists

人と人から道が生まれる。対談

所長の浮田が、お客様の本音を聞き出す社長対談シリーズ第5弾。
今回は異業種にチャレンジされて3年、薩摩川内市市比野に広がる緑ゆたかな丘陵地帯でさつま地鶏の放し飼い飼養をされている井上農場さんにお話しを伺いました。

対談:井上廣明×浮田直宏

浮田(以下U) さつま地鶏の生産を始められたきっかけを教えてください。
井上社長(以下I) 最初は、主事業の鉄骨工事の売上の減少により、次に代わるものを求めていまして、私と妻と兄の3人で、第2の人生をかけられるものを模索していた時に、入来にさつま地鶏推進協議会と言うものがあると知りまして、入来町外の者はダメという規定だったらしいんですが、特例として入れてもらったのがきっかけですね。
そうなんですか、何か飼養していたわけでは無くて、素人として始められたんでしたら、相当苦労されたのではないですか?
そうですね。今も相当苦労していますけどね(笑)。雄は5ヶ月、雌は6ヶ月飼養し、今現在で、4000羽ほど飼養しています。私や兄も、やり出したら止まらないタイプだったので、ここまで来てしまったという印象です。


 

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U 地鶏の飼養に対してのこだわりと言うのはあるんですか?
うーん、今、お客様が何を求めているのかと言うと、安心・安全ですよね。化学薬品・抗生物質を与えない、元気で健康な鳥を作ろうというところから、始めているので、そんなにこだわりと言うものは無いかと思うんですけど。
いや、そこがこだわりと言っていいんじゃないですかね?今だいぶ食の安全が叫ばれていますが、そこまで手間暇かけている方は少ないと思いますが?
手間暇かけてお客様に喜んでいただいて、それに見合ったものを私たちももらえればいいんです。ただ、すばらしい鳥なので、だんだん生産量が増えて、売上が上がってくると、やっぱり大手が参入してきますよね。そうなってくると、私たちみたいに手間暇かけている所はやっていけなくなると思うんですよ。ですから、今の内に、違いをアピールしていかないといけないと思っています。
そうですね。値段の関係もあるとは思いますが、販促の方はどのようにされているんですか?
今、インターネットなどいろいろあるのですが、私のところでは口コミしかないだろうと言う事で口コミで広めています。いつ広まるのかと言う人もいますが、3年くらい続けていますね。
コストもかからないですし、だいぶ地鶏の値段もするので口コミは強いですね。
そうですね、100g当たり390円と牛肉とほぼ変わらない値段ですから。なかなか売れないんですよ(笑)。そこで、売れないなら、食べていただこう」ということで、市比野の道の駅湯遊館で試食販売を1年半ほど日曜日にやり続けました。それから始まって、川内の山形屋さんが、うちでも試食販売をして下さいと言ってこられたんです。
山形屋さんの店舗に出されているんですか。すごいですね。
試食販売の現場に、山形屋ストアーの社長さんがたまたま来られて、試食をされたら気に入られたみたいで、「鹿児島市内の店舗でも試食販売をしてくれないか。」と言われたのがきっかけでお付き合いさせていただいています。
口コミの力はすごいですね。
まあ、口コミと言うよりも試食かもしれませんね。広告(新聞折り込み)をするぐらいなら食べさせてようとやってきましたから。
基本的には小売しかされないんですか?飲食店には卸売はされないんですか?
東京のビストロさんや大阪のお寿司屋さん、焼鳥屋さんに卸していますよ。まあ、お酒のつまみとかではなく、料理の目玉として出されているようです。鹿児島ですと、天文館の某有名料亭さんに卸しています。
すごいですね、ネームバリューの高いところに卸していらっしゃるんですね。
社長さんや従業員さんにうちの地鶏を気に入っていただいています。

 


U 一番大変なこと、気をつけていることは何ですか?対談:井上廣明×浮田直宏 鳥を、放し飼いで飼養していますので油がほどよくのるようにしています。放し飼いで走り回ると言うよりも飛び回ってますね。
それはすごいですね。餌にも気をつけていることはありませんか?
季節の青物を与えています。夏ならにがうり、春ごろなら菜の花を与えています。特に菜の花は植物性の油だと言うことで与えていますが、これがいいことなのかはわからないですが、人間にもいいのだから鳥にもいいだろうと思って与えています。あと、化学薬品・抗生物質を使わないようにしています。そのため、病気対策に炭や石炭と木酢を使用しています。
それは、飼養も大変でしょう。今後はもっと羽数を増やしていかれるんですか?
そうですね。今、需要と供給のバランスが崩れ、需要が多い状況なので、供給が間に合っていません。増やしていかないといけない状態ですね、バイヤーの方から、「いつ揃いますか?」との電話が多いです。ですから、有り余るぐらいまで飼養をしていきたいですね。余れば、加工食品などもっと広がっていくと思いますので。
そうですねえ、飲食業などは助成金もありますので、どんどん仕事を広げることができそうですね。そういえば、加工する際に気をつけていることがあると思いますが?
ええ、人体に影響のない消毒剤というものがあるんですが、やっぱり薬は薬なので気を遣っていますよね。
薬以外での消毒方法は無いんですか?
保健所などいろいろ聞いて回った際に、薬品以外であれば、もう熱湯しかないということでした。菌というのは、どんなに冷凍しても死なないですが、その代わり熱には弱いと言うことなので、うちでは82℃以上の熱湯で、テーブルやまな板を消毒して、薬品を使わないようにしています。
安心安全を大切にですねえ。
そうですね、人体に影響はないと言っても蓄積すればわかりませんからね。抗生物質も、1~2週間すれば体から抜けると言いますが、逆に1週間そこらで抜けるものを与えるのなら、私の方は3ヶ月、4ヶ月かけて抜こうと思っています。
だいぶ時間をかけているんですね。
ええ、まあ、ひよこのうちに抗生物質を与え、丈夫な鳥にして、成長したら与えないというやり方ですね。ひよこのうちに与えてるんじゃないかと思いますけど、赤ちゃんにワクチン接種などするのとおなじですよね。その代わり、成長して放し飼いになったら一切与えません。鳥自身の生命力と健康管理に任せようというやり方ですね。
そうなんですね。そこまでこだわって飼養されているのをもっともっとアピールしていかないといけないですね。
そうなんですよ、PRだけではどうにもできないですからね。そのための、試食販売ですね。
ここまでのお話しですとそれしかない気もしますねえ。
試食販売ですと消費者の生の声や、反応を聞き取れます。不満な点や気になる点、そう言ったところをすぐ改善策を立てることができるのでこのままのスタイルを続けていくでしょうね。
こうなってくると、いかに富裕層をつかむかがポイントになってきそうですね。
そうですね。特に景気のせいか、注文自体が減ってきていますね。まあ、うちの場合は、山形屋さんがあるのでだいぶ富裕層はカバーできそうなところはあるのですが、値段的に、牛肉とほぼ同じ値段ですから、難しいでしょうね。


 

対談:井上廣明×浮田直宏

U 出荷時にもいろいろとこだわりがありそうですがどうでしょう。
自分の手で捕まえて、この鳥は仕上がったものとそうでないものとをより分けて、自分の手で捌きます。色とか、切れ方などで自分が納得したものだけを出しています。自分が満足しないとお客様は満足してくれませんからね。まあ実際には自分は満足してもお客さんが満足しないこともありますけど(笑)。十人十色それぞれですからね。試食販売にしてもお客さんが、「この鳥おいしいの?」と聞かれますが、私は「まずは食べてください」と言います。私がおいしいと言ってもお客さんにはおいしくないかもしれないですからね。おいしいかどうかはお客さんが決めることですから。
そうですね。個人差もあるでしょうからね。試食販売で超すとがだいぶかかとは思いますが、続けていけばだいぶ認知度が広がっていきそうですけどね。
まあ、最終的には松坂ウシのように、ブランドになるようにしたいです。井上農場のさつま地鶏はひと味違う、一級品だよとしたいです。
U 名称とか違うのを考えないといけないですねえ。
I まあ、そこで屋号を(市比野温泉井上農場)としました。まあ、周りの景気等が悪いこともあるので地域おこし、村おこし、町おこしと地域密着、周りの活性化に役立てばと思って変更したんです。地域のみなさんと一緒に、金儲けはできないですけど、「今日、食べられる。明日、食べられる。さつま地鶏で、ご飯食べられますよ。」と食べていけるという基本を作りたいんです。ですから、今の最終目標は利益を出さなければいけないですが、まずは「利益を出すことではなくて町全体でさつま地鶏を飼養して、ご飯を食べ、生活していくことができるようにすることですね。」
地域全体の発展のことまで考えていらっしゃるんですね。

Profile

さつま地鶏生産・販売 「市比野温泉井上農場」社長
井上 廣明

  • 1948年生まれ
  • 薩摩川内市出身
  • 趣味:鳥一筋
  • 座右の銘:一心一業一徹

さつま地鶏生産・販売 市比野温泉井上農場

〒895-1203
鹿児島県薩摩川内市樋脇町市比野6595
電話・FAX 0996-38-1525

監査担当者のこぼれ話

病気の床にある方から、「もう一度井上農場の鳥を食べたい。」、和歌山の方で、「昔食べていた懐かしい味がする。幼い頃のふるさとの情景が思い出された」とのお手紙を頂いたことが、とても励みになったそうです。

さつま地鶏とは?

鹿児島県が平成2年から平成12年までの10年かけて開発した地鶏。雄鳥が天然記念物の薩摩鳥と雌鳥にロードアイランドレッドを掛け合わせて出来た銘柄。日本三大地鶏の比内鶏・名古屋コーチンに並び評される。
平成15年度に「さつま地鶏」として商標登録。
平成17年度に全国地鶏・銘柄鳥コンテストにて最優秀賞に輝くほど評価が高い。