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価格転嫁と価格表示への対応  増税分をきちんと価格転嫁しよう!

日本商工会議所の調査では、税率引上げに伴う価格転嫁について、「一律に上乗せできる」と 回答した中小企業は半数にとどまり、規模が小さくなるほど、転嫁が難しくなるといわれてい ます。
また、価格転嫁ができても、需要が落ち込むようだと、本体価格そのものを引下げなければ ならなくなり、売上や利益への影響が避けられません。転嫁後の売上の推移に注意が必要です。

1.価格転嫁できない場合の計算例(個人経営の飲食業の場合)

個人で飲食店を経営するB氏の平成30年の売上高は3,000万円(税込)で、それに係る仕入・ 経費は1,600万円、人件費は900 万円、簡易課税を選択しており、 納税した消費税額は88万8千円 でした。酒類は提供していません。
B氏は、増税分を価格転嫁す るかどうか検討しています。価 格を据え置いた場合の影響につ いて、シミュレーションしてみました。
「仕入・経費」は、家賃や光熱 費、その他の経費に係る消費税 率が10%となるため100万円増加 することが見込まれます。また、 消費税額は20万円強アップし、値上げをしない場合、利益が120万円減少することがわかりまし た。資金面では営業活動から得られるキャッシュが120万円減少し、181万円となり、生計費を 維持できなくなることがわかりました。B氏は、今後、値上げが可能な商品の絞り込みを行う などして、可能な限り、増税分の価格転嫁を行い、またコスト削減を実施して、収支改善を図る方針です。

項目 増税前8% 増税後10%
 売上高  30,000  30,000
 仕入・経費  16,000  17,000
 賃金・給与  9,000  9,000
 消費税(簡易)  888  1,090
 利益  4,112 2,910
 減価償却費  1,000  1,000
 簡易キャッシュフロー  5,112  3,910
 借入元本返済  2,100  2,100
 現金増減額  3,012 1,810

(単位:千円)

2.販売先や消費者に請求する消費税額

販売される商品や提供されるサービスの取引価格に転嫁される消費税額は、契約書や請求書、 値札などによって請求されます。まず、2019年10月1日以前の早い段階において、これら請求 媒体の文書やシステムなどを消費税率の引上げに対応する内容やプログラムになっているかど うかを確認・メンテナンスする必要があります。
例えば、同日以後に100万円で販売した製品を旧税率8%で請求してしまった場合、納税する 消費税額を計算する上においては、消費税額は108万円×10/110≒9万8千円、本体価格は (単位:千円)
108万円-9万8千円=98万2千円となり、1万8千円の値引きがあった場合と同じ結果になります。
会計処理においても、税抜経理の場合は、次のように処理することが正しい処理となります。
(売掛金)1,080,000円  /(売     上) 982,000円
                                 /(仮受消費税額等) 98,000円  
家賃など、毎月定期的に同じ金額が振り込まれるような取引の場合、事前に入金先に連絡文 書を送付するなどして確認を求めておくことも必要です。次の「確認ポイント」を参考にして 消費税率引上げに対応するための、販売請求管理の現状把握を指導しましょう。


【確認ポイント】

  • 販売システムなどが複数税率に対応しているか。
  • 販売時点が全社で統一されているか。
  • 営業担当者が販売価格の提示について税抜、税込の仕分を意識しているか。
  • 契約書で本体価格と消費税額が明確に区分されている表記となっているか。
  • 工事請負契約書など契約日が明確に表記されているか。
  • 値札やメニューなど店頭表記の価格を改定したか。
  • 振込額の改定についての連絡文書を送付したか。

 

3.税率引上げに伴う価格改定(価格転嫁)について

2019年10月1日の消費税率引上げ前後に、柔軟に価格設定ができるよう、政府(内閣官房、 公正取引委員会、消費者庁、財務省、経済産業省、中小企業庁)は、「消費税率の引上げに伴う 価格設定について(ガイドライン)」を公表しました。
前回の8%への引上げの際、引上げ前の駆け込み需要とその反動減によって景気が落ち込ん だことを踏まえ、ガイドラインでは、10月1日の税率引上げ前において、需要に応じて事業者 がそれぞれの判断によって柔軟に価格設定をして、消費者が安心して購買できるようにするため、その考え方を以下のように示しています。
(1)価格設定に関する考え方
10月1日に一律一斉の税込価格への引上げを行う必要はなく、柔軟に価格設定できるとしています。
税率引上げ後に小売事業者が値引きを行う場合、「消費税はいただいていません」「消費税還 元セール」など、消費税と直接関連した形で宣伝・広告を行うことは消費税価格転嫁対策法に おいて禁止されていますが、事業者の価格設定のタイミングや値引きセールなどの宣伝、広告 自体を規制するものではないとしています。
中小・小規模小売事業者に対して、消費税引上げ後、一定期間に限り、ポイント還元などの 支援によって、価格設定の幅が広がるとしています。
(2)適正な転嫁の確保
事業者間の取引について、小売事業者に製品・サービスを納入する下請事業者等がしわ寄せ を受け、適正な価格転嫁ができず、増税分を負担させられるような事態を避けるため、消費税 転嫁対策特別措置法によって、小売事業者や下請事業者等に対して、増税分の減額や利益提供 を求めることを禁止しています。
(3)その他
税率引上げ前に、需要に応じて値上げを行うなど経営判断に基づく自由な価格設定を行うことを何ら妨げるものではないことを明確にしています。