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経営者が知っておきたい労働保険の基礎知識

労働保険(労災保険・雇用保険)の年度更新(6月1日〜7月10日まで)の時期に併せて、事業主の視点から労働保険(主に労災保険)についての基礎知識をまとめました。

1.労災と事業主の責任

労災事故が発生した場合、被災した労働者に対して労災保険による給付が行われることで、 事業主は労働基準法上の補償責任を免れますが、労災によって休業する場合の休業1〜3日目 の休業補償について、労災保険から給付が行われないため、平均賃金の60%を事業主が労働者に支払う必要があります。
また、補償責任とは別に、当該労災について不法行為・債務不履行(安全配慮義務違反)な どの事由により被災者等から事業主に対して、民法上の損害賠償請求をされる場合もあります。 ただし、二重補填という不合理を解消するため、労働基準法に基づく補償が行われたときは、 その価額分は民法による損害賠償の責を免れます。

2.労働基準監督署への報告義務と労災隠し

労災事故が発生した場合、事業主には、労働基準監督署への報告義務として、「労働者死傷病報告」を提出しなければなりません。これを提出しなかったり、虚偽の内容を記載して提出したりすることを「労災隠し」といいます。
「労災隠し」は、労災にあった労働者が不利益を被ることから、厚生労働省は厳格に対処して おり、悪質なケースでは書類送検した事例もあります。

3.通勤災害と認められる要件

労災保険の給付は、労働者が業務を原因・事由とする「業務災害」と、通勤を原因・事由と する「通勤災害」があります。実務上、よく問題となるのは、通勤途中にどこかに立ち寄って けがなどをした場合、労災保険における「通勤災害」にあたるかどうかです。
労災における「通勤」とは、就業に関し、
①住居と就業の場所との間の往復
②就業の場所 から他の就業の場所への移動
③単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動を、合理的な経路及び方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。移動の経路を逸 脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は、原則として「通勤」 とはなりません。

  • 「合理的な経路及び方法」とは?

「合理的な経路」とは、通勤のために通常利用する経路が、複数ある場合、それらの経路はいずれも合理的な経路になります。また、当日の交通事情により迂回した経路、マイカー通勤者 が駐車場を経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ず通る経路は「合理的な経路」にな ります。
「合理的な方法」については、通常用いられる方法(鉄道、バスなどの公共交通機関を利用、 自動車、自転車などを本来の用法に従って使用、徒歩など)は、平常用いているかどうかにかかわらず、合理的な方法になります。

  • 「往復の経路を逸脱し、または中断した場合」とは?

「逸脱」とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路を逸れることをいい、
「中断」とは、通勤の経路上で通勤とは関係のない行為を行うことをいいます。
具体的には、通勤の途中で映画館に入る、居酒屋に立ち寄るなどの場合をいいます。
しかし、通勤の途中で、経路近くの公衆トイレを使用する場合や、経路上のコンビニ等で ジュースやたばこを購入するなどの些細な行為であれば、逸脱、中断にはなりません。
通勤の途中で、逸脱や中断があり、その後、合理的な経路に戻って、途中でけがをしてしまった場合には、原則として通勤とは認められず、労災の対象にはなりません。
ただし、例外が認められており、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるも のを、やむを得ない事由により、最小限度の範囲で行う場合には、合理的な経路に戻った場合 は、再び通勤として認められ、労災の対象になります。
【厚生労働省令で定める逸脱、中断の例外となる行為】
・ 日用品の購入その他これに準ずる行為
・ 公共職業能力開発施設において行われる教育その他のこれに準ずる教育訓練であって、職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
・ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
・ 病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為
・ 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)