お知らせ

7月1日から改正民法(相続法)が施行されます


1.配偶者間の居住用不動産贈与の「持戻し免除の意思表示の推定」(改正法903条4項)

配偶者間の居住用不動産贈与については、税法と旧民法で食い違いが生じていた部分であり、 改正法による実務上の実益(影響)が非常に大きい部分です。

贈与税の配偶者控除の特例(相続税法21条の6)は、居住用不動産については夫婦の協力によって形成された場合が多く、夫婦の一方が他方にこれを贈与する場合も、一般に贈与という 認識が薄いこと、居住用不動産の贈与は配偶者の老後の生活保障を意図してされる場合が多いこと等を考慮したものです。

ところが旧民法では、相続税法の特例措置を使った場合でも、当該不動産は「配偶者の特別受益」とされ、被相続人から遺産の「先渡し」を受けたものとして遺産分割における相続分が計算されます。各相続人の相続分は遺産総額に相続割合を乗じて計算され、贈与を受けた配偶 者の相続分は、前記計算額から贈与不動産の価格を差し引いて(減額して)算出されます。そのため、配偶者が実際に受け取る額は計算上の額より相当低くなります(旧民法903条1項)。

改正法では、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与があった場合は、当該不動産 については「持戻し免除の意思表示」があったものと推定するという規定を設けました。推定 といっても、被相続人が推定を破る「別段の意思表示」をする場合はほとんどないものと思われます。これにより、配偶者間の居住用不動産の贈与事案は、当該不動産を遺産から除外して 遺産総額を算出し、そのうえで各相続人の相続分を計算することになり、配偶者の老後生活保 障を考慮した税法との整合性が図られます。

なお、「期間20年」とは、遺贈時(遺言書作成時)、死因贈与契約時又は贈与時に婚姻期間が 20年以上であることが必須です。もし、これらのときに20年未満であれば、相続開始時に20年 以上であっても「持戻し免除」にはなりません。他方で、相続開始時に配偶者が居住していな くても適用されます。配偶者間で離婚と再婚があっても、婚姻期間が合算で20年あれば適用されます。

2.預貯金の遺産分割に関する規定の整備

(1) 遺産の分割前における預貯金債権の行使(改正法909条の2)

改正法では、共同相続人の各種の資金需要に迅速に対応するために、遺産の分割前における 預貯金債権の行使を認めました。行使できる金額は、相続開始後の単独の遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始時の債権 額の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額です(改正法909条の2)。同一の金融機関では150万円が上限です(平成30年法務省令第29号)。 権利行使した預貯金債権は当該相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます。 使途は問われません。経過規定により、施行日前に相続が発生した場合でも、施行日以後に預 貯金債権を行使する場合は改正法の適用が認められます。

(2) 遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲(改正法906条の2)

〜いわゆる「使途不明金問題」への対応規定〜

本規定は、前述した「遺産分割前の預貯金債権の行 使規定(909条の2)」等の法的手続きを経ないで、勝手に遺産を処分した(使ってしまった) 者と、そうでない相続人との間の不公平を、遺産分割手続の中で是正する手段を新設したものです。改正法により、処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものと「みなす」ことに なります。また、遺産分割時の時価を基準にして計算します。これにより勝手に処分した者の 相続分を少なくして、相続人間の公平を実現できます。適用上の注意点は次の通りです。

①処分の時期は、相続開始後、遺産分割前であること

②相続人の配偶者や子等が処分した(使った)場合にも適用がある(改正法906条の2第1 項)

③処分の態様は、預金の払い戻し、動産売却などの法律上の処分だけでなく、物理的損壊や 持分譲渡も対象になる

本規定は、処分を認めている場合や処分の事実が明白な(認定できる)場合に適用できますが、処分したと思われる相続人が処分の事実を争っている(認定できない)場合には適用できません。

3.特別の寄与(相続人以外の者の貢献を考慮するための方策)(改正法1050条)

旧民法では、相続人の配偶者が被相続人を無償で手厚く療養看護(介護)した場合でも寄与 分として扱うことができませんでした。しかし、実際に療養看護や介護を行うのは相続人の配 偶者である場合が多く、不公平という指摘がされていました。改正法は、この不公平を法的に解決するため、相続人以外の親族の貢献や寄与を評価して、 一定の要件のもとで「寄与に応じた金銭(特別寄与料)」を認める特別寄与者制度を新設しました。要件は以下のとおりです。

①親族であること(内縁の妻は対象外)

②無償で、療養看護等その他労務の提供をしたこと

③被相続人の財産維持又は増加に特別の寄与をしたこと

④相続開始及び相続人を知ったときから6か月又は相続開始時から1年以内に請求すること

4.遺留分制度の見直し(改正法1042条以下)〜遺留分侵害額請求権(金銭請求)の新設〜

旧民法では、遺留分の行使は「遺留分減殺請求権」とされ、権利行使により当然に各遺贈等 の対象財産に遺留分割合に応じた権利が生じる(共有)こととされていました(旧民法における原則処理)。そのため、相続財産に不動産が含まれている場合に、遺留分権利者が遺留分減殺 請求を行使し、当該不動産に一方的に「遺留分登記」を行うことが可能でした。

他方で旧民法では、遺留分減殺請求を行使された側は価格賠償(相当額での金銭支払)をすることが通例でした(旧民法における例外処理)。しかし、価格賠償の前に遺留分登記がなされてしまい、混乱することもありました。

改正法では、旧民法の原則と例外を反対にして、遺留分権利者の請求権を「遺留分侵害額請 求権」という金銭請求権に変更しました(改正法1046条1項)。遺留分権利者から金銭請求を受 けた受遺者・受贈者が直ちに金銭を準備できない場合は、裁判所が受遺者等の請求により金銭 債務の支払いについて相当の期限を与えることができます(改正法1047条5項)。